システム奮闘記:その106

LANのデータ通信と信号符号化



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(2016年11月14日に掲載)

10Base-T、100Base-TX、1000Base-T

 これらの規格の違いは、通信速度の違いにある。
規格の種類
10Base-T 最高10Mbps送信可能
100Base-TX 最高100Mbps送信可能
1000Base-T 最高1000Mbps(1Gbps)送信可能

 今まで、何気なく

 100Base-TX

 と言っていたのだが、ある事に気づいた。
 どうして・・・ 

 100Baseの場合、TでなくTXやねん?

 そこで規格の読み方を調べてみる事にした。

「100Base-TX」の読み方
100 1秒間の最大送信ビット数
Base Baseband
T Twister Pair(ツイストペアケーブル)
X ANSI X3T9.5が定めた伝送方式を採用

 ANSI X3T9.5が定めた伝送方式って何やねん!

 なのだ。

 調べていくと以下のサイトを発見した。
 Ethernet LAN - 規格 FastEthernet / GigabitEthernet / 10GigabitEthernet

 「X」はFDDIの技術を使用

 と書いている。
 ところで

 FDDIって何やねん?

 という事で調べてみた。

FDDIとは
光ファイバーを用いたTokenPassing方式。
リング型の100MBpsの伝送容量を持ったLAN

 これについては後述しています。


データ送信とデジタル信号の符号化

 LANケーブルを使ってデータ送信する場合、「0」、「1」の信号を そのまま送っているわけではないという。  しかも・・・  10Base-T、100Base-TX、1000Base-Tとでは異なる符号化  というのだ。  マンチェスタ符号などがあるのだが・・・  なんで符号化するねん!  なのだ。  本に理由が書いていた。
符号化する理由
送信するデータが「111111」のように、同じ物が連続すると
どこが区切りなのかが、わからなくなってしまうのだ。

 つまり、こういう事なのだ。

 信号の「0」「1」のビットの間隔を伝えるために
同期信号というものがある。

同期信号とは
同期信号
同期信号は一定の間隔で「0」「1」を交互に伝える信号だ。
手拍子やピアノのメトロロームと同じ役目だ。

 もし「1」の連続が続いても、同期信号があれば
「1」の連続信号を正確に読み取る事ができる。

もし「1」が連続しても
もし「1」が連続しても同期信号があれば、どこが区切りかがわかる
上図のように「1」の連続信号が送信されても
同期信号が並行して送られていたら
どこが区切りかがわかるため、送信データを正確に読み取る事ができる。

 だが、LANの場合、同期信号を送信する線はないし
そもそも同期信号を送る仕組みにはなっていない。

 そのため以下のような事が起こってしまう。

信号が「1」の連続になると
信号が「1」の連続になると正確に信号が読み取れなくなる
同期信号がない場合、どこが区切りかがわからなくなる。
信号の遅延や、受信側の誤差などもあるため
1ビットの信号が何秒なのかがわかっていても
受信誤差などの影響で、10個連続の「1」を9個連続「1」という風に
誤って受信してしまう可能性があるのだ。

 それを防止するためにあるのが

 信号の符号化なのらー!

 というわけで、信号の符号化を見ていくことにした。


10Base-Tでの符号化

 10Base-Tの場合、マンチェスター符号化が使われる。

マンチェスター符号化

 そこでマンチェスター符号化が何なのかを見ていく事にした。
マンチェスター符号化とは
マンチェスター符号化とは
マンチェスター符号化とは「0」の信号を「10」に変換し
「1」の信号を「01」に変換する方法だ。

これだと「1」の連続信号であっても
「1」の変換後は「01」になるため、「1」の連続を防止する事ができる。

 具体的に、データ転送の場合、以下のようになる。

マンチェスター符号化でデータ転送した場合
マンチェスター符号化でデータ転送した場合
上図のように信号変換されて送信されるのだ。
これだと「0」もしくは「1」が3つ以上連続する事がなくなる。

 だが、マンチェスター符号化には大きな問題点がある。

 送信データ量が2倍になるのらー!!

 確かに上図をみたら、倍のデータ量になっている。
 そのため、データ送信の効率が下がってしまう問題点がある。


100Base-TXでの符号化

 100Base-TXでは、データ送信の効率が良い 別の符号化が採用される事になった。  ところで100Baseの場合  100Base-Tではなく、100Base-TXやねん  という疑問があった。  色々、調べていくと以下のサイトを発見した。  進化するイーサネット(2):MACフレームを運ぶイーサネット物理層 - @IT  すると、そこにはTXになった理由がわかるだけでなく 100Base-TXの符号化についても書かれていた。
私が見たサイトの100Base-TXの符号化
100Base-TXの場合のデータ送信の際の符号化
100Base-TXの場合、光ファイバーを使ったLAN通信(FDDI)の
100Base-Xの技術を、従来の銅線のLANケーブル通信にも応用しているため
ツイストケーブルの「T」だけでなく、光ファイバー技術の「X」も付け加え
100Base-TXになっているのだ。

符号化については、元の信号を3段階に渡り
符号化を行なっているというのだ。

(注意)
実は、このサイトの符号化についての記述は間違えている事が
あとでわかった。それについては後述しています。

 このサイトに書かれている符号化の方法について、
誤りがあるとは知らないまま、先に進んでいく。

4B/5B符号化

 まずは最初に行なわれる符号化である、4B/5B符号化から見てみる。
4B/5B符号化とは
4B/5B符号化とは
上図のように、4つの連続したビットを、5つのビットに変換する方式だ。
「4B」、「5B」の後ろの「B」はBit(ビット)の意味だ。

 4B/5Bの変換方法だが、特に法則性がなく、変換表を使って
変換しているようだ。

4B/5B変換表
変換前(4ビット) 変換後(5ビット)
0000 11110
0001 01001
0010 10100
0011 10101
0100 01010
0101 01011
0110 01110
0111 01111
1000 10010
1001 10011
1010 10110
1011 10111
1100 11010
1101 11011
1110 11100
1111 11101
これ以外にも制御関連の信号もあります。
それについては後述しています。

 4B/5B符号化の利点は

 データ量の増加が1.25倍に抑えられるのらー!!

 マンチェスタ符号化の場合、2倍なので、データ転送の効率が
良くなっているのがわかる。

 そもそも4B/5Bの符号化の目的を調べてみる事にした。

4B/5Bの特徴と目的
(1) 「0」の連続が3つに抑える事で
同期をとりやすくする。
(2) 10の変化を少なくしている。
もちろん「10101」や「01010」があるので
なんとも言えないのだが・・・
(3) 信号を1ビット増やす事で、制御信号を送る事が可能になる。
マンチェスタ符号化にはなかった特徴。

 確かに「0」の並びは、最大3つになっている。




 次にNRZ符号化について見てみる。

NRZ符号化
NRZ符号化
データ信号の「0」の際、電圧を「低」にする。
データ信号の「1」の際、電圧を「高」にする。

直観的に見ると上図のようになるので、簡単に頭に思い描ける。

 次にNRZI符号化を見てみる。

NRZI符号化
NRZI符号化
NRZI符号化には2種類ある。
「0反転」と「1反転」だ。

「0反転」は、信号が「0」の場合、低・高が反転する。
「1反転」は、信号が「1」の場合、低・高が反転する。

 NRZIの「1反転」の場合を詳しく見てみる。

NRZIの「1反転」
NRZIの「1反転」
信号が「1」の場合、電圧の反転が起こる。
信号が「0」の場合、反転が起こらないので、電圧はそのままになる。

 4B/5B符号化、NRZI符号化、NRZ符号化、MLT-3符号化の順番で
符号化を行ない、100MBpsの通信を実現している。

 だが、思った。

 NRZI符号化の後にNRZ符号化する理由がわからへん!!

 そこで他に詳しい説明がないのかと思い、100Base-TXについて
記述しているサイトを調べてみた。

 どこまでも徹底取材!! インフラ探検隊
 ASCII.jp:1GbpsのEthernetの実現手段を知ろう (2/4)|入門Ethernet
 ブロードバンドアクセス【IP 型】 技術参考資料(PDF:NTTコミュニケーションズ)

 すると・・・

 サイトによって符号化の話がバラバラなのらー!!

 これには頭を抱える。

あるサイトでの説明(1)
あるサイトでの100BaseTXの信号の符号化の説明(1)
4B/5B符号化の後、スクランブルが行なわれ
その後、MLT-3符号化が行なわれるという記述だった。

 別のサイトでは違った説明になっていた。

あるサイトでの説明(2)
あるサイトでの100BaseTXの信号の符号化の説明(2)
4B/5B符号化の後、MLT-3符号化が行なわれるという記述だった。

 思わず・・・

 どれがホンマの記述やねん!!

 となる。
 この際だから・・・

 事務員にわかるか!!!

 という常套手段で逃げる事を考えたのだが、往生際の悪さは
天下一品の私。なので、しつこく調べる事にした。

 すると・・・

 ICチップのデータシートに行き着いた

 なのだ。

 78Q2120c 100base-TX transceiver Datasheet(PDF)

 英文で書かれている。
 「日本男児たるもの鬼畜米英の言葉なんぞ!」と言っても前に進まないため
肝心の部分だけを読む事にした。

 3頁目に以下の記述があった。

データシートに書かれている内容
100BASE-TX Transmit
The 78Q2120C contains all of the necessary
circuitry to convert the transmit MII signaling from a
MAC to an IEEE-802.3 compliant data-stream
driving Cat-5 UTP cabling. The internal PCS
interface maps 4 bit nibbles from the MII to 5 bit
code groups as defined in Table 24-1 of IEEE-802.3.
These 5 bit code groups are then scrambled and
converted to a serial stream before being sent to the
MLT-3 pulse shaping circuitry and line driver. The
pulse-shaper uses current modulation to produce
the desired output waveform. Controlled rise/fall
time in the MLT-3 signal is achieved using an
accurately controlled voltage ramp generator. The
line driver requires an external 1:1 isolation
transformer to interface with the line media. The
center-tap of the primary side of the transformer
must be connected to the Vcc supply.
4B/5B符号化した後、スクランブルをして
MLT-3符号化している事が記述されている。

でも、このデータシートのICチップの処理行程図には
スクランブル後、NRZI符号化している事が描かれている。

 そして思った。

 LANカードのチップで符号化しているのか!!

 今まで、そんな事を考えた事もなかった。
 もっと書くと、符号化の話なども知らなかったので、LANカードのチップなんぞ
全く気にも留めなかったのだ。

 そこで10Base-T/100Base-TX対応のLANカードを見てみる事にした。

10Base-T/100Base-TX対応のLANカード
10Base-T/100Base-TX対応のLANカード
拡大図
10Base-T/100Base-TX対応のLANカードのICチップ
このICチップがデータの符号化を行なう部分になる。

 そこで、上の写真のDAVICOM DM9101のチップのデータシートを
探してみる事にしたら、見つかった。

 DAVICOMのDM9101 10/100Mbps Ethernet Physical Layer Single Chip Transceiver(PDF)

 これも英語やん!!

 英語嫌いでも鬼畜米英と言っては前に進まない。
 渋々、該当の部分を読む事にした。


 するとデータをLANの送信信号に変換する過程が書いていた。

100Base-TXでの信号変換について
(データシートに書かれている内容を引用:P15)
100Base-TX Operation
The block diagram in figure 3 provides an overview of the
functional blocks contained in the transmit section.
The transmitter section contains the following functional
blocks:
- 4B5B Encoder
- Scrambler
- Parallel to Serial Converter
- NRZ to NRZI Converter
- NRZI to MLT-3
- MLT-3 Driver

 図にすると以下の通りだ。

100Base-TXでのデータの符号化について
100Base-TXでのデータの符号化について
もともとデータを信号にした場合、NRZ符号化になっている。
4B/5B符号化した後、スクランブルを行なう。

その後、パラレル(5本線)で信号を送っていたのを
1本で信号を送信するシリアルに変換する。

NRZI符号化を行なった後に、MLT-3符号化を行なうというのだ。

パラレルをシリアルへ変換
パラレルをシリアルに変換する装置がある。
シフトレジスタと呼ばれる物だ。


 DAVICOMのDM9101のデータシートには、4B/5B符号化の変換表もあった。

4B/5B符号化の変換表
信号の意味変換前 変換後
0000 11110
0001 01001
0010 10100
0011 10101
0100 01010
0101 01011
0110 01110
0111 01111
1000 10010
1001 10011
1010 10110
1011 10111
1100 11010
1101 11011
1110 11100
1111 11101
制御信号
IDLE定義なし 11111
SFD(1)0101 11000
SFD(2)0101 10001
ESD(1)定義なし 01101
ESD(2)定義なし 00111
エラー定義なし 00100
未使用部分
Invalid定義なし 00000
Invalid定義なし 00001
Invalid定義なし 00010
Invalid定義なし 00011
Invalid定義なし 00101
Invalid定義なし 00110
Invalid定義なし 01000
Invalid定義なし 01100
Invalid定義なし 10000
Invalid定義なし 11001

 ところで

 SFDやESDって何やねん?

 そこで調べてみると、以下の資料を発見した。
 SDFは

 Start of Frame Delimiterの略

 だという。
 でも、そこで納得しない私。
 納得するしない以前に・・・

 Delimiterって何やねん!!

 なのだ。
 なので、意味を調べてみる事にした。

Delimiterの意味
「区切り」の意味で、「区切り文字」という意味もある。

 SFDの意味は・・・

 フレームの開始を知らせる文字

 というわけだ。
 SFD(1)とSFD(2)が対になって、フレームの開始を知らせるというのだ。

SFDについて
DAVICOMのDM9101のデータシートでは「SFD」になっていたが
他のICチップのデータシートでは「SSD」になっている事もある。
「Start of Stream Delimiter」の略だ。
フレームとストリームの違いで、意味は同じなのだ。

 ESDの意味は

 End of Stream Delimiterの略

 で、ストリームの終わりを知らせる文字だ。


 次にスクランブルというのが行なわれるのだが・・・

 スクランブルとは何やねん?

 そこで調べてみる事にした。

 データシートには以下のように書かれている。

スクランブルとは
(データシートに書かれている内容を引用:P15)
Scrambler
The scrambler is required to control the radiated emissions
(EMI) by spreading the transmit energy across the
frequency spectrum at the media connector and on the
twisted pair cable in 100Base-TX operation.
By scrambling the data, the total energy presented to the
cable is randomly distributed over a wide frequency range.
Without the scrambler, energy levels on the cable could
peak beyond FCC limitations at frequencies related to
repeated 5B sequences like continuous transmission of
IDLE symbols. The scrambler output is combined with the
NRZ 5B data from the code-group encoder via an XOR
logic function. The result is a scrambled data stream with
sufficient randomization to decrease radiated emissions at
critical frequencies.
答えが書いているのだが、これを読んだ時は内容が理解できなかった。

 ところで・・・

 EMIって何やねん?

 というわけで調べてみると、以下のサイトで説明が書いてあった。

 ノイズ対策の基礎 【第1回】 EMIフィルタって何? | EMICON-FUN! | 製品情報 | 村田製作所

 Electro Magnetic Interferenceの略で「電磁妨害」という意味だという。
 平たく言えば・・・

 ノイズによる影響

 なのだ。


 どうやらスクランブルを行なう理由は、ノイズ対策のように思えるが、
この時点では、なぜスクランブルをする理由がわかったわけではない。


 そこで噛み砕いた説明がないかと、引き続き調べてみる事にした。
 すると、Micrel社の100Base-TXのチップのデータシートの資料に書いていた。

 KSZ8051MLL 10Base-T/100Base-TX Physical Layer Transceiver(PDF)

 このデータシートの15頁にスクランブルをする理由が書いていた。

Micrel社のデータシートの15頁目を引用
Scrambler/De-Scrambler (100Base-TX Only)
The scrambler is used to spread the power spectrum of
the transmitted signal
to reduce EMI and baseline wander, and
the de-scrambler is needed to recover the scrambled signal.
送信データのスペクトラムを広げ、電磁妨害を減らすのが目的だ。
パワースペクトラムはフーリエ変換したら出てきます。

 実際に、いくつかのデジタル信号をフーリエ展開を行なって
スペクトラムが広がる様子を見てみたいのだが、とてもそんな事はできない。

 そんな中、スクランブルをする理由が、日本語のサイトが見つかった。

 送信データのパワースペクトラムを広げる図まで掲載されている。
 高速シリアル・インタフェース測定の必須スキルを身に着ける (5) シリアル・インタフェースの物理層を形成する3大要素 - トランスミッタ(2) | マイナビニュース


 どういう事か。
 お得意の、受け売りで説明してみる。

スペクトラムに偏りがある場合
信号の周波数スペクトラムに偏りがある場合
上図のようにスペクトラムに偏りがあると
その成分が引き起こす電磁波が強くなるため
特定の雑音(ノイズ)が強くなるというのだ。

 そこで特定の雑音(ノイズ)が突出してでないようにするため
スクランブルを行なうのだ。

スペクトラムに偏りをなくした場合
スペクトラムに偏りをなくした場合
スクランブルを行なう事で、上図のように特定の周波数スペクトラムが
突出してでないようにする。それにより特定の周波数の雑音(ノイズ)が
出るのを防ぐというわけなのだ。

 見事に、受け売りが決まった!

 のだ。

 スクランブルの目的。

 4B/5B符号化した際、データ送信がない時の状態は、Idle信号なのだが
この時は「11111」の信号で、「1」の連続になる。

 すると、同じデータが繰り返し送信されるため
信号スペクトルに偏りが出てしまう。
 そこで・・・

 スペクトラムの偏りをなくすために行なう

 というのだ。

MLT-3符号化

 100Base-TXの符号化で、最後に行なわれるのがMLT-3符号化だ。  まずは、どんな符号化なのか見てみる。
MLT-3符号化とは
MLT-3符号化
信号が「1」の場合に変化する符号化で、変化の方法は
「+1」→「0」→「-1」→「0」の順番で電位を変化させるのだ。
(先に「-1」になる場合もあるようだ)

 詳しく見ると以下の通りだ。

MLT-3符号化による電位の変化
MLT-3符号化は、信号が1だと、電位が変化する
どこで変化しているのか、わかりやすくしてみた。

 ところで

 なんでMLT-3符号化をするねん!!

 なのだ。

 調べてみると、日本のインターネットの父と呼ばれる
慶應大学の村井先生の資料に載っていた。
 (といっても、村井先生とは面識はありませんが)

 符号化と周波数成分

 周波数成分を小さくするため

 だという。
 資料には以下の事が書いていた。

資料の記述
マンチェスタ符号よりMLT-3の方が変化が
緩やかなので、周波数成分が小さい

 どういう事なのか。
 まずはMLT-3の方が変化が緩やかな事を確かめるため
MLT-3とマンチェスタ符号を比較してみる事にした。


 MLT-3の場合、「0」→「1」→「0」→「-1」→「0」を
周期として見ると以下のようになる。

MLT-3は波の周期と同じとみなせる
MLT-3は波の周期と同じ
変化を波の動きとして見ると、「0」→「1」→「0」→「-1」→「0」に かかった時間を、周期として見る事ができる。
上図の場合、周期は7ビット分の送信時間になる。

 もし、マンチェスタ符号の場合は、「0」→「1」→「0」なので
上図の信号を送る場合、以下の周期とみなせる。

マンチェスタ符号での周期
マンチェスタ符号での周期
符号化後、7ビット分の送信時間の間に、4回分の周期があるとみなせる。
そのため、マンチェスタの方が変化が激しい事がわかる。

 直観的に・・・

 MLT-3の方が変化が緩やか

 だというのがわかった。


 次に周波数成分が小さいとは、どういう意味なのか。
 世の中の関数は、デジタル信号だろうが何であろうが

 三角関数の合成で表現できる

 のだ。
 つまり・・・

 フーリエ展開

 なのだ。

 フーリエ展開の話は「システム奮闘記:その104」で取り上げた。
 無線LANの基礎 無線LAN入門と導入事例

 そこで復習をかねて、デジタル波形のフーリエ展開を考えてみる。

パルス波をフーリエ展開する場合
パルス波をフーリエ展開

 上図の場合は偶関数なので、以下のように計算できる。

パルスのフーリエ展開
パルスのフーリエ展開
Y軸に左右対称の関数なので偶関数だ。
そのためフーリエ級数も偶関数の部分のみ求めれば良いのだ。

 実際、どんな関数になるのか計算してみる。

フーリエ展開
パルス波のフーリエ展開
デジタル信号のパルスも、三角関数で表現してしまうのだ。

 実際に、フーリエ展開して求められた式が
パルスになっているのか、確かめて見る事にした。

フーリエ展開した式をグラフにしてみる
フーリエ展開した式をグラフにしてみる
無限級数になってしまうので、mは0〜3までにしてみた。
それでも、かなり良い感じのグラフになっている。

 次数が小さい段階で、元の関数や信号が表現できる場合を

 周波数成分が小さい

 というのだ。
 言い変えると

 フーリエ展開した際に高周波成分を省いても大丈夫

 という事なのだ。


 直観的に見ると、周期の長いMLT-3の方がマンチェスタ符号化に比べると
高周波成分が少なそうに見える。 

 実際にフーリエ展開してみたいのだが・・・

 そんな面倒な事、できへんわ!!

 便利な数学ソフトがあれば良いのだが、手元にないし
手計算する気は起こらないので、

 忍法、めんどくさいので逃げの術

 で逃げる事にした (^^)


 ところで

 なんで高周波成分があるとアカンねん?

 となる。

 そこで調べてみるにした。
 村田製作所 ノイズ対策 基本講座


 電磁波を発生させる原因になるようだ。

 ところで高周波成分を除去するのはローパスフィルターがある。
 原理は簡単だ。

ローパスフィルター
高周波を取り除くローパスフィルター(LPF)の原理
コンデンサーは高周波成分を流しやすい性質がある。
その性質を利用して、上図のように高周波を逃す回路が組まれる。

詳しくは「システム奮闘記:その104」をご覧ください。
無線LANの基礎 無線LAN入門と導入事例


1000Base-Tでの符号化

 1000Base-Tの場合、8B1Q4と4D-PAM5の2つの符号化の組み合わせだ。  まずは8B1Q4変調だが  8 binary to 1 quinary 4  の略だという。  これだけだと、わからん。日本語だと  8bitを、5値(quinary)データを4組からなる1シンボルに変換  という。  だけど・・・  言葉だけだと、わからへん!!  なのだ。 そこで以下のサイトを見てみる事にした。  ASCII.jp:1GbpsのEthernetの実現手段を知ろう (4/4)|入門Ethernet  8B1Q4符号化を図式化すると以下のようになる。
8B1Q4符号化
8B1Q4符号化
送信したい8bitのデータに、誤り訂正符号を付ける。
9bitのデータにした後、6bitと3bitにわける。
3bit(2の3乗で8通り)で信号変換表を選ぶために使われる。
残り6bitは信号変換される。

 上の図だとわかりにくい。

 よくわからんと思いつつ、「最新LANハンドブック」(秀和システム)を見ると
8B1Q4符号化と4D-PAM5符号化の変換表が載っていた。

 そこで、3bit部分で信号変換表を選んで、6bitの部分の
データ変換を行なうのを、変換表で見てみる事にする。

変換表
[0:5] [6:8]が[000]の場合 [6:8]が[010]の場合 [6:8]が[100]の場合 [6:8]が[110]の場合
00000 0,0,0,0 0,0,+1,+1 0,+1,+1,0 -,+1,0,+1
000001 -2,0,0,0 -2,0,+1,+1 -2,+1,+1,0 -2,+1,0,+1
000010 0,-2,0,0 0,-2,+1,+1 0,-1,1,0 0,-1,0,+1

 変換表を見て、ようやくASCIIのサイトの説明が理解できた。
 つまり、こういう事なのだ。

8B1Q4符号化の仕組み
8B1Q4符号化の仕組み
3bitの部分で変換表の種類を選ぶ。
そして選ばれた変換表を使って、6bitの変換を行なう

 「8B1Q4」の「1Q4」は「5値(quinary)データを4組からなる1シンボル」の意味だ。
 どういう事なのか。

5値(quinary)データを4組からなる1シンボル
「8B1Q4」の「1Q4」は「5値(quinary)データを4組からなる1シンボル」
8bitの信号に誤り訂正符号をつけて9bitにする。
それを変換して、5値をとる4桁の値にする。

9bitは2の9乗(512通り)ある。
5値4組だと、5の4乗(625通り)あるため、9bitのデータを
網羅する事ができるのだ。

 ところで・・・

 なんで4組の値にするねん?

 という疑問が出てくる。

 理由はすぐにわかった。
 LANケーブル内には8本の線がある。
 2つが対になっているので、実質4本線だ。

 1000Base-TでのLANケーブル内の線の使い方を思い出す。

1000Base-Tの伝送方式
1000Base-Tの伝送方式
1000Base-Tでは、LANケーブルの信号線を全て使う。
実質4本線で、4組のデータを一度に送受信できるのだ。

 8B1Q4符号化によって、5値を取る4組の値にするのは
1000Base-Tで通信するため、4組にわけているのだ。

 8B1Q4符号化の次に、4D-5PAM符号化が行なわれる。
 この変調は、値を電位に変換するための変調なのだ。

4D-5PAM符号化
4D-5PAM符号化
信号の値を電位に変換して、データの送信を行なうのだ。
8B1Q4符号化で1度に8bitの信号を送れるようになる。 1クロックに8bitだ。
125Mbps×8×4=1Gbpsが成り立つ。

 ところで、1000Base-Tの場合、LANケーブルはCAT5e以降が使われる。
 そのため・・・

 CAT5eは100MHz帯域までの周波数用のケーブル

 が使えるのだ。

 ところで4D-5PAM符号化によって送られる信号の周波数はどうなるのか
確かめてみる事にした。

1000Base-T 4D-5PAM符号化と1クロックの時間
1000Base-T 4D-5PAM符号化と1クロックの時間
1000Base-Tの場合、1本の線で、1秒間に125MBpsの信号を送る事ができる。
1秒間に125Mクロックなので、1クロックは8nsになる。

 ところで周期は以下のように見る事ができる。

1000Base-Tの4D-5PAM符号化後の信号の周期
1000Base-Tの4D-5PAM符号化後の信号の周期
赤い部分が最短の周期に該当する。
周期が16nsなので、この時の周波数は62.5MHzになる。

 十分、CAT5eのケーブルが使える!

 のだ。

正直に書きますと
どういうわけか、最初、1クロックと1周期が同じだと
勘違いしてしまった。
そのため周期が8nsだと周波数は250MHzになるので
CAT5eが使えないはずと思い、なぜCAT5eが使えるのか
色々、調べていた。だが、私の勘違いだと気づいた時
思いっきり力が抜けてしまった。

 ところで1000Base-Tだが、対応したハブは、スイッチングハブばかりだが
過去の遺物を受け継ぐため、CSMA/CDを継承しているのだ。

 だが、通信速度が早いため、以下の工夫がされている。

1000Base-TでCSMA/CDが正常に動くための工夫
(1) キャリアエクステンション機能
(2) フレームバースト機能

 だが、深追いする気はない。
 だって・・・

 調べるのが面倒だもーん!!

 と本音が出た所で、1000Base-Tを調べるのは終わる事にした。


10Gbase-T

 近年、1000Base-Tよりも上の規格の10GBase-Tの規格が出ている。  10Gbpsの通信を可能にする技術  なのだ。  ここでも信号を符号化する事で  信号の周波数を下げ、かつ、信号誤り防止  を行っているのだ。  以下のサイトに10GBase-Tの技術が書いていた。  銅線の限界に挑む10GBASE-Tの仕組みとは?(ASCII)  まずは66/68B符号化を使う。  66ビットを68ビットに変換するものなのだ。  それを行う事で  信号に「1」や「0」が続かないようにする  のが目的だ。  そしてLANケーブルに送信していている間に電磁波(ノイズ)の影響を受けても 誤り検出を行うために  LDPC符号  を行っているのだ。  LDPCとは・・・  低密度パリティ検査(Low Density Parity Check)  だという。  だが、これではさっぱりわからん。  調べてみると、以下のサイトを発見した。    LDPC(Low Density Parity Check) : モバイルテクノ(富士通)  サイトではLDPCは、衛星通信やモバイルなど、無線関係に使われる 誤り検出の方法だという。  そして、LDPCの解説資料もあるのだが・・・  難しすぎて、わからへん!!  なのだ。  内容が理解できたら、受け売りであっても、色々説明しようとするが 理解できない物だと、説明ができない。  なので、正々堂々と「わからん」と言って、逃げる事にしたのだ。  ところでLANケーブルだが、CAT6a、CAT7のケーブルになる。  もし、1000Base-TのLANを組んでいて、10GBase-Tに切り替える際 ハブだけでなく、LANケーブルの交換も必要になる。  LANケーブルの交換費用だけでなく、床の下や天井にLANケーブルを敷いている場合は、 交換作業だけでも手間がかかる。  現時点では、うちの会社では10GBase-Tを使わなければならないほど 通信量が多いわけでないため、導入は、まだまだ先のように思えた。

IEEE 802.3bz

 簡単に10Gbase-Tの話を書いた後、以下のような締めくくりの文章を書こうと思った。
書こうとしていた、締めくくりの文章
10GBase-Tは、まさに銅線を使った通信の限界と言えるかもしれない。
40GBase-Tや100GBase-Tは光通信になっている。

将来はLANの高速化に伴って、LANケーブルのCAT5eが使われなくなるだろうし
銅線だとノイズの影響や減衰のため、銅線ケーブルそのものが
光にとって代わられるだろう。

 そんな感じで、締めくくろうと思った矢先の2016年9月30日、
以下のニュースが飛び込んできた。

 既存のLANケーブルでこれまでの最大5倍高速な5Gbpsへ爆速化する新規格「IEEE 802.3bz」が承認される
 既存のCAT5eケーブルで2.5Gbps、CAT6ケーブルで5Gbpsを実現する有線LAN規格「IEEE 802.3bz」が承認

 CAT5eのケーブルだと2.5Gbpsの通信を可能にし、CAT6aだと5Gbpsの通信を可能にするという規格だ。
 実装ができたら、2.5GBase-Tという規格や、5GBase-Tになるようだ。


 この技術は朗報なのだ。

 近年、無線LANの高速化が進んでいる。
 「11ac」という規格だと、理論上6.93Gbpsの通信が可能な上
実際に、1Gbpsを超える速度を出す無線LAN装置が出ている。

 有線LANは、1000Base-Tが主流なので・・・

 有線LANよりも無線LANの方が高速

 という状態になったのだ。

 無線LANについては「システム奮闘記:その104」(無線LANの基礎 無線LAN入門と導入事例)をご覧ください。

 高速無線LANに対応しようよ考えた場合、従来なら、10Gbase-Tへの切り替えとなるが
10GBase-Tへの切り替えには費用がかかる。
 ハブだけでなく、LANケーブルの買い替えも必要なのだ。


 だが、「IEEE 802.3bz」のお陰で、1000Base-Tで使われるCAT5eのLANケーブルが
そのまま使える事から、少なくともLANケーブルの交換は不要になる。


LAN入門:目次
ストレートケーブルとクロスケーブル LANケーブルのストレートタイプとクロスタイプの違いを書きました。
リピーターハブとスイッチングハブ リピーターハブとスイッチングハブの違いと、全二重通信と半二重通信の話です。
10Base-T以降では、パケット衝突は、実は擬似衝突などを書いています。
社内LANの調査 2005年に、ブラックボックス化した社内LANを解明した話です。
オートネゴーシエーション 10Base-T、100Base-TX、1000Base-Tなどが混在する環境で
どうやって通信制御を行っているのか
その仕組みを書きました。
LANケーブルの規格 CAT(カテゴリー) LANケーブルの規格のCAT(カテゴリー)の違いを書きました。
データ送信とデジタル信号の符号化 LANケーブルを信号が伝わる際、どうやってデータ送信をしているのか。
デジタル信号の周波数を抑えながら、高速で信号送信する技術を書きました。
10Base-T、100Base-TX、1000Base-Tについて書きました。
データリンク層 LAN内のパソコンや通信機器同士の通信はMACアドレスが使われています。
それを司るデータリンク層について書きました。
表皮効果と近接作用 LANケーブル内で起こっている信号減衰の原因が
表皮効果と近接作用である事と
LANケーブルの撚り線が、ノイズ対策なのを書きました。
ツイストペアとノイズ対策 LANケーブルがツイストペア(撚り線)なのはノイズ対策のためです。
その話を書きました。
差動回路とノイズ対策 LANケーブルは8本あり、データ通信は複線で行っています。
差動回路を使ったノイズ対策の話を書きました。
同軸ケーブルの仕組み 昔のLANに使われていた同軸ケーブル。
現在でもテレビのアンテナに接続する線として使われたりしています。
同軸ケーブルの仕組みや特性インピーダンスの話を軽く触れました。
発振回路 クロック信号を作る発振回路の説明です。
簡単なLC型コルピッツ発振回路を使って説明しました。


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